はじめての知的財産権
 こちらのページでは、知的財産権についてあまりよくわからない方のために、 専門用語をやさしく言い換えながら、制度の概要などについて説明しています。 あくまで『原則』の理解を主目的としていますので、一部制度が複雑に感じられるような例外については、 こちらで判断して省いているものがあります。
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 特許法にて「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作うち高度のものと定義され、 実用新案法にて「考案」とは自然法則を利用した技術的思想の創作と定義されています。 よって下記に挙げたような類型に該当するようなものは発明(考案)には該当しません。
自然法則
技術
(例外)上記を満たしていても認められないもの
発明の課題を解決するための手段は示されているものの、その手段によっては、 課題を解決することが明らかに不可能なもの
(例)中性子吸収物質(例えば、ホウ素)を溶融点の比較的高い物質 (例えば、タングステン)で包み、これを球状とし、 その多数を火口底へ投入することによる火山の爆発防止方法。 <理由>火山の爆発は火口底においてウラン等が核分裂することに起因するという 誤った因果関係を前提としているため。
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上記の「発明」が『①〜④の要件』を全て満たしていることが必要です
① 産業上利用することができること
「産業」… 製造業、鉱業、農業、漁業、運輸業、通信業等
※ 産業上利用することができる発明に該当しない例
・個人的にのみ利用される発明 (ex.喫煙方法)
・学術的、実験的にのみ利用される発明
業としての実施をすることができること」と言い換えられます。 例えば「髪にウェイブをかける方法」のように個人的に利用され得るもの、 学校において使用される「理科の実験セット」のように、 実験に利用されるものであっても、業としての実施をすることができるもの (市販又は営業の可能性がある)は認められます。
※ 以下の発明は産業上利用できた場合でも対象外です。
対象外

② 新規性を有していること
 特許制度は発明公開の代償として特許権を付与するものであるので、 特許権(実用新案権)が付与される発明(考案)は新規な発明でなければなりません。 審査官は、請求項に係る発明が新規性を有しているか否かを、請求項に係る発明と、 新規性及び進歩性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、 請求項に係る発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断します。
 先行技術は、出願前に日本国内または外国において公然知られた発明、 公然実施された発明、頒布された刊行物に記載された発明(※ 特許公報、学術論文、新聞や雑誌など)、 電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(※ インターネット上に論文がアップされるなど)を指します。
新規性

③ 進歩性を有していること
 当業者が容易に発明をすることができたものについて特許権を付与することは、 技術の進歩に役立つものとは言えず、かえってその妨げになるため、 特許権(実用新案権)が付与される発明(考案)は進歩性を有していなければなりません。 審査官は、請求項に係る発明の進歩性の判断を、先行技術に基づいて、 当業者が請求項に係る発明を容易に想到できたことの論理の構築(論理付け)ができるか否かを検討することにより行います。 「まだ世に出ていない発明であれば必ず特許権を取得できる」わけではないことに気をつけましょう。
進歩性

④ 先願の地位を有していること
 後願が先願の出願公開等より前に出願されていたとしても、 後願に係る発明が先願の当初明細書等に記載された発明等と同一である場合には、 後願が出願公開等されても新しい技術を公開するものと言えなくなります。 そのため、このような後願に係る発明に特許を付与することが、 新しい発明の公開の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でないため、 特許権(実用新案権)が付与される発明(考案)は先願の地位を有していなければなりません。
 下図の◯は先願の発明が先行技術にあたる場合であっても自身の後願が特許を取得できる可能性がある場合、 ×は先願の発明が先行技術にあたるとして拒絶理由通知がなされる場合を意味します。 当該図の左下の① 出願公開がなされる前に出願が取り下げられるケースは稀であり、 ②のケースのように、出願から1年6ヶ月を経過すると出願公開され、 出願から3年を経過しても出願審査請求がなされず、取り下げられたものとみなされることが多いです。
先願


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 上記の発明(考案)の定義において、文言上の違いは「高度のもの」であるか否かの違いですが、 実用新案権で保護される考案は「物の形状・構造又は組合せによるもの」に限られます。 また、「高度のもの」であっても「物の発明(考案)」であれば実用新案権を取得することが可能です。 一方で、「方法の発明」や「物を生産する方法の発明」は特許権のみで保護されます。
保護範囲
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 一つ前の項目で説明したように、「物の発明(考案)」の保護は共通しますが、 「方法の発明」や「物を生産する方法の発明」は特許権のみで保護されます。 また、特許権は実用新案権よりも ① 権利に安定性があり、 ② 存続期間が長いこと、③ 出願公開、出願審査請求があること などが特徴です。

 ① 権利の安定性について

 この権利の安定性は、権利取得までに必要な過程(プロセス)に大きく関係があります。 特許出願には「実体審査」があり、要件が十分に検討され、不十分な時は拒絶理由通知がなされます。 この通知を受けると、出願内容の補正や意見書の提出機会が与えられ、 その理由が解消されて初めて特許査定がなされます。 そのため、設定登録後の特許権に無効理由がある(要件を満たす発明ではない)として、 争いが起こるリスクは低くなり、権利の行使(ex.損害賠償請求)を安心して行えます。
 一方で、実用新案登録出願は、出願様式や出願人等の要件、物の考案である等の基礎的な要件のみ審査されます。 そのため、要件を満たしていない考案であっても「登録」されます。 但し、実用新案権で権利行使をするためには、有効性の証明(実用新案技術評価書の提示)が必要なため、 要件を満たしていない実用新案権で権利行使することはできません。
★ 特許出願から特許査定までの流れ
★ 実用新案登録出願から登録までの流れ
特許・実用新案 工程表
 ② 存続期間について

 特許権は特許出願日から20年、実用新案権は実用新案登録出願日から10年です。 前述のように特許権は安定的で、かつ長期的にその発明を独占的に実施できる産業財産権です。
存続期間
 ③ 出願審査請求と出願公開について

 特許出願には、出願から3年以内に出願を実体審査の段階に進めるための請求を行う「出願審査請求」と、 出願から1年6ヶ月を経過(※例外あり)すると出願された発明の内容が公開される「出願公開」という制度があります。 出願審査請求は任意で出願人に限らず行えますが、出願公開は出願を取り下げた場合等を除き原則行われます。
 この出願公開制度について、特許権を取得するには前述のようにある程度の期間を要するため、 審査中に同様の発明について出願がなされたり、同様の開発を第三者が続けていることは少なくありません。 既に発明された技術を重複して開発することは社会全体にとってマイナスであり、 技術を公開することでこのような事態を防ぎ、また、発明のさらなる改良を促す目的があります。
 次に出願審査請求は、出願した発明が本当に必要な権利かどうか、じっくり検討する時間を出願人に与えてくれます。 (※ 審査請求を行わない時とは、研究開発の方向性が変わったとき、 先願の発明が公開されたことで権利取得が難しいと判断されたときなどが挙げられます。) 但し、その発明を実施したい第三者が、拒絶されるか特許査定されるかを早く知りたいために請求する事もできます。
★ 出願公開と出願審査請求について
出願公開
 出願審査請求がなされずに3年が経過し取り下げられたものとみなされた出願は、 (既に出願から1年6ヶ月経過しており)出願公開がなされているため、 もし同一の発明が後願として出願されたとしても新規性違反を理由に拒絶されます。


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 「実用新案」を漢字でそのままの意味を捉えると「実用的な新しいアイデア(案)」となるように、 「特許」と比較すると"ちょっとしたアイデア商品を保護する"といったイメージがあると思います。 そのような実用新案の特徴は、① 登録までの期間が短く ローコストであること です。

① 実用新案登録出願は登録までの期間が短い

 下図は、特許出願と実用新案登録出願の特許査定又は登録までの流れを表したものです。 左は特許出願、右は実用新案登録出願で、それぞれ矢印で示した期間はその工程に至るまでの平均期間(または目安)を示しています。 (※ 特許庁により2020年に示された指標より)
★ 特許出願から特許査定までの流れ
★ 実用新案登録出願から登録までの流れ
特許・実用新案 工程比較

 特許出願における特許査定までの目安として参考になる期間が、 出願審査請求をしてから審査官からの何らかの通知が行われるまでの平均期間です。 2020年の調べで、10.1か月です。その通知が拒絶理由通知である場合は、 さらにそこから補正等のやり取りが発生します。
 一方で、実用新案登録出願は、方式審査と基礎的要件の審査を経て、 登録されるまでの期間は2ヶ月〜3ヶ月が目安です。

② 実用新案は特許よりもコストがかからない

 特許権の存続期間は特許出願日から20年ですので、実用新案権の存続期間である実用新案登録出願から10年に合わせて、 10年目までに特許庁に対して支払いを要する金額を下図にて比較しました。 請求項が1の時、請求項が2の時の金額比較と、 実用新案権に基づいて権利行使をする際に必要となる 『実用新案技術評価書』を請求しない場合とした場合で比較しました。 (※ 特許には実用新案技術評価書の請求はありません)
★ 10年目まで権利を存続させた場合に特許庁へ支払う費用の比較 ① (実用新案技術評価書の請求がない場合)
 図①は、請求項が1の時と2の時、それぞれの比較です。 10年目まで権利を存続させた場合に、特許庁への支払いが必要な金額は、請求項1の時、特許は249,600円、実用新案は112,000円です。 実用新案の方が1/2以下の金額です。その傾向は請求項が増えても変わりません。
★ 10年目まで権利を存続させた場合に特許庁へ支払う費用の比較 ② (実用新案技術評価書の請求があった場合)
 図②は、実用新案技術評価書を請求した場合のコスト比較です。 請求にかかるコスト(42,000円+請求項数×1,000円)が加わるため、 実用新案技術評価書のかかるコストの差が縮まります。 権利行使を目的とする活用をする場合には、差が少なくなることに留意してください。
 細かな金額の内訳を知りたい方は、特許庁の 「産業財産権料金一覧:パンフレット」 に詳細が記載されています。また、特許庁へ支払う費用の他、弁理士事務所への代理人手数料などの諸費用がかかります。 ケースによって異なりますので、何か不明な点がありましたら、お気軽に問い合わせください。