はじめての知的財産権
 こちらのページでは、知的財産権についてあまりよくわからない方のために、 専門用語をやさしく言い換えながら、制度の概要などについて説明しています。 あくまで『原則』の理解を主目的としていますので、一部制度が複雑に感じられるような例外については、 こちらで判断して省いているものがあります。
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1. 産業財産権としての意匠権
 意匠権は産業財産権の一つであって、 同じく産業財産権である特許権や商標権と共に「産業の発達」に寄与するという「目的」を同じくする法律上の権利です。 特許は「発明(技術的思想の創作)」、商標は「商標を商品などに使用することで蓄積した業務上の信用」を 保護するものであるのに対し、意匠は「デザイン(視覚を通じて美観を起こさせるもの)」を保護するものです。
 ここで、美術館にあるような絵画や彫刻も意匠になるの?と思う方もいるかも知れませんが、答えはNOです。 最初にお伝えしたように、「産業の発達に寄与する目的」が大前提であるため、工業上のデザインに関するもの、 すなわち「量産が可能である」ことが必要です。後述しますが、意匠法ではお店などの内装も保護の対象になります。 例えば、内装で量産が可能なものとは、皆さんもご存知のチェーン店の内装がこれに当たります。

2. どのようなデザインが意匠なのか?
 では、意匠とは何でしょうか?法律上の定義を要約すると、 「物品または建築物の形状、模様、色彩(またはこれらの結合)、画像であって機器の操作の用に供されるもの、 機器がその機能を発揮した結果として表示されるもののうち、視覚を通じて美観を起こさせるもの」です。 また、物品、建築物、画像の意匠から構成される組物であって統一感があるものは「組物意匠」、 物品、建築物、画像の意匠から構成される内装であって統一的な美観を起こさせるものは「内装意匠」、 物品、建築物の『部分の形状等』を保護する「部分意匠」の登録も認められています。

3. 意匠権の保護範囲が広がりについて
 上記に挙げた様々な意匠の中には、令和元年の法改正によって新しく意匠権の保護対象として認められたもの(ex.建築物の意匠、内装の意匠)や 保護の範囲が拡大されたもの(ex.画像の意匠など)があります。その背景には、IoT(物をインターネットに繋げる技術)の発達や 商業におけるチェーン展開の増加といった「産業の発達」に合わせていくことも理由の一つとして考えられます。 今後もその産業の発達に寄与するとする目的に合わせて、意匠の範囲も変わる可能性があることを知っておきましょう。


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① 既に公開された意匠ではないこと・その意匠に類似していないこと(意匠法第3条1項各号)

類似
 まず前提として、意匠法とは新しい意匠を保護するため制度です。 その新規性の判断とは、新聞や雑誌、展示会、インターネット上などの場所やツールによって、 不特定の人(守秘義務を負わない人)に「公開」されていないこと。 (例えば、個人のインスタグラムで写真を1枚アップすることも公開に当たります。) たとえ自分が創作した意匠であっても、出願前に公開された意匠は、原則として意匠登録が認められません。 また、意匠登録を受けた意匠権には、 「意匠権者が業として登録意匠およびこれに類似する意匠の実施を専有する権利」があるため、 公開された意匠に類似する意匠が登録されてしまうと、 既に公開されて登録が受けられなくなった意匠を実施する権利も与えてしまうことになるため、 「類似する意匠」の登録が受けられないことに注意してください。

類似2
 上図では、同一の物品(ex.スマートフォン)を例にして形状等の類似の範囲を示していますが、 意匠の類似判断は形状が同一または類似であることだけでなく、物品が同一または類似であることが問われます。 物品の類否判断は用途と機能に基づき判断されますが、 例えば、左図のように、スマートフォンの類似物品の中にタブレット型PCが含まれるとします。 すると、公開された物品がスマートフォンであっても、形状と物品が類似するタブレット型PCを出願すると、 新規性を失っているとして、意匠登録を受けることができません。 反対に、既に別の物品で公開された意匠であっても、物品が全く類似しない場合には意匠登録を受けられる可能性があるとも言えます。 (ex.スマートフォンの形状をした冷蔵庫 etc.)

※ もし意匠登録出願を行う前に公開した場合であっても、その意匠が自分で創作したものである場合であって、 かつ、出願と同時に「新規性喪失の例外規定」の手続きを一定期間内に行えば、例外規定の適用を受けられます。 つまり、自分の公開の行為を理由に「既に公開された意匠である」とは判断されなくなります。 但し、例えばインスタグラムとTwitterで公開してしまったとしたら、 それぞれのプラットフォームで公開してしまった事実について、例外適用を受けなければならず、 かなり手続が煩雑になります。

② 容易には創作できないこと(意匠法第3条2項)

形状等
 この要件は、①「誰による」 ②「何に基づいた」創作なのか?がポイントです。 ①については、その意匠の分野における通常の知識を有する者と規定されています。 例えば、スマートフォンの意匠であれば、スマートフォンの開発を行なっている人などがこれに当たります。 ②については、「日本国内又は外国において公然知られ、頒布された刊行物に記載され、 又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(形状等) 又は画像」 と規定されています。左図が(形状等)を示したものです。形状そのものや模様等と組み合わさったもの全てが含まれます。 そして、日本のみならず、外国においても出版物に掲載されたり、ネットで公開された形状等、そして画像に基づき 容易に創作できるかで判断されます。

創作容易性の審査のポイントはいくつかありますが、 その意匠の属する分野における「ありふれた手法」により創作されたものは創作容易と判断されます。
1 意匠の構成要素の一部を他の意匠等に置き換える
2 複数の既存の意匠等を組み合わせて、一つの意匠を構成する
3 意匠の創作の一単位として認められる部分を、単純に削除する
4 意匠の構成要素の配置を、単に変更する
5 意匠の特徴を保ったまま、大きさを拡大・縮小したり、縦横比などの比率を変更する
6 繰り返し表される意匠の創作の一単位を、増減させる
7 既存の様々なものをモチーフとし、ほとんどそのままの形状等で種々の物品に利用・転用する

③ 公益性に反していないこと(意匠法第5条)

1. 公の秩序や善良の風俗を害するおそれがある
 日本や外国の元首の像、国旗を表した意匠、日本の皇室の菊花紋章や外国の王室の紋章(類似するものを含む。)等を表した意匠は、 国や皇室又は王室に対する尊厳を害することを理由で登録が受けられません。 また、出願人と何も関係のない特定の人物の肖像や個人情報等を表した意匠に ついても同様に登録が受けられません。

2. 他人の業務にかかる物品、建築物または画像と混同を生ずる恐れがある
 他人の周知・著名な商標や、これとまぎらわしい標章を表した意匠は、 その物品等がそれらの人や団体の業務に関して作られた、または販売されるものと混同されるおそれがあり登録が受けられません。

3. 物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる
(建築物の用途にとって不可欠な形状のみ、画像の用途にとって不可欠な表示のみからなる)

 その機能を持つ物品全てに独占権を与えてしまうことになるため、産業の発達を著しく制限してしまうため登録が受けられません。 (建築物の用途、画像の用途についても同様です)

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 ① 出願から登録までの流れについて

意匠登録出願
 出願前には、特許出願や商標登録出願などと同様に先行する意匠登録や世の中に公開された意匠と 出願する意匠が類似または同一ではないかを調べる必要があります。 既に同じような意匠が公開されたり、登録されている場合には、登録を受けることができません。 また、意匠権が設定されているものを無断で使うと意匠権の侵害となる可能性があります。 出願後の流れは、左図にあるように審査が行われ、 登録要件を満たしていない場合には、 拒絶査定がなされます。 登録要件を満たしている場合には、登録査定後、 登録料の納付がなされると、設定登録されます。


 ② 存続期間について

存続期間
 令和元年の法改正が行われるまでは、左図にある「設定登録」があった日から20年の存続期間が認められていました。 現在は、特許権は特許出願があった日から20年、意匠権は意匠登録出願があった日から25年で、 意匠権の方が長期間の権利が認められています。
 意匠法には関連意匠制度(登録意匠や出願意匠に類似する意匠も、一定期間内の出願に限り意匠登録が認められる制度)があり、 関連意匠に該当する意匠権については、元となる登録意匠や出願意匠である本意匠に係る出願から25年の存続期間となります。